依存症(=嗜癖)の治療へのグループの力

ピアカウンセリング(仲間同士のカウンセリング)の効果がある自助グループについて

 

 薬物依存について、国立精神・神経センター 松本俊彦先生の講演をお聞きする機会がありました。

薬物依存がテーマでしたが、あらゆる依存症=嗜癖(アディクション)に共通する点が多いと感じました。

 

カウンセリングに来られる方とお話をしていて、この行動は依存症=嗜癖になってしまっているのではないかと思うことが時々あります。「やめたい、けど、やめられない」という行動です。はっきり止めたいと思っている方もいれば、これは依存ではない、そうせざるを得ないのだと思い込んでいる方もいます。

思い込んでいると言ってしまうと、失礼な言い方に聞こえるかもしれませんが、追いつめられてしまうと、その行動(アルコール依存ならお酒を飲む、薬物依存なら薬を飲む、買い物依存なら買い物が止められない)がおかしいと薄々感じていても、それがないと辛くて苦しくて他に解決方法はないと感じておられるからです。

 

松本先生のお話はとても率直で、そのままここに再現できず、私の感じた内容になってしまいましたが、趣旨は同じです。

 

依存症の方は、ほぼ全員がとても自尊心が低く劣等感が強く、自分は値打ちがない人間だと思い込んでいます。その自己否定感は健康な方からは想像できないほど厳しいものです。その自己評価の低さに耐えきれず、一瞬でもその気持ちから解放されたくて、多くの人は嗜癖行動を繰り返します。

そして、家族や周囲に見えるのは、嗜癖行動だけであることがほとんどです。ご本人が低い自己評価で苦しんでいることには、ほぼ100%気づいておられないのではと感じます。嗜癖行動が始まるまで、情緒的なつながりが乏しかったのかもしれません。苦しさのあまり嗜癖行動に走った結果、「なぜそんなことを繰り返すんだ?!」と周囲や家族から強い叱責を受け、さらに自己評価が低くなります。本来はSOSを出そうとしたはずなのにとてもそうは見てもらえません。

 

依存症=嗜癖行動の治療にはとても時間がかかります。おそらく依存症と診断を受けるまでに、その人は人生の多くの低い自己評価で過ごし、死ぬか依存するかの瀬戸際で生きてこられたのだと感じます。この苦しさを一瞬でいいから消したいという、一見治療的な効果があるので、止められなくなっています。それはうっすらと分かっていても苦しみの方が大きい、止め方がわからないのです。

多くのカウンセラーや精神科医が止め方を教えられるかというと、王道があるわけではありません。「依存症の治療を受ける」ということがさらにご本人の自己評価を下げることになるので、治療につながることがとても難しいからです。

これまで、「よく来たね。」と暖かく迎え入れられた体験の少ない、もしくはほとんどない患者さん、クライエントさんたちにとっては、「暖かく迎え入れてもらえる。」『ここはあなたがいていい場所なんだよ。」と責められることなく安心できる場を提供することが何よりの治療の第一歩となります。

このことはすべてのカウンセリングにも当てはまると感じます。

 

心に深い悩みがあるとき、多くの方は自己批判し、こんな自分はダメだと自己否定し続けています。自分はダメだからこんなことになったのだと。

摂食障害も依存=嗜癖行動の一つであると考えられています。かなりヘビーな嗜癖です。自分の身体をかけてしまうわけですから。摂食障害のクライエントにお会いすると、自分がカウンセリングに来ることさえ、人に迷惑をかけて負担になっているから、そんな自分は価値がないということを話される方もいます。もしくは、このカウンセラーは私のことを信じてくれるのだろうかと、これまでの認めてもらえなかった体験から、信頼することが非常に難しい場合もあります。それほど孤独で自分に閉じこもり、食べることだけが自分をコントロールできる=自分が信じられる行動になってしまっているのです。

 

そんな依存=嗜癖を止められない人たちにとって、治療を継続し、自尊心の低さから回復するために力を持つのは同じ苦しみを背負った仲間です。止められない、止めようと思ったけど失敗してしまった、でもまた頑張りたい、そんな気持ちを受け止めてくれる、いわば戦友です。

 

そういうグループを作り、グループの会合を維持していき、一人でも戦友を増やし、依存=嗜癖から抜け出せる時間を増やしていくことが、私たち、心理職専門家に求められていると、強く感じます。

これまで、助けを求められなかった人々、適切に依存する経験を持てなかった人に、孤立せず、排除されない居場所を提供することがさまざまな依存症の回復につながると信じています。仲間の力ほど強力なものはありません。

健康な人なら当たり前に持っている仲間からの励まし、支え、助け合い。それを体験することが依存症に苦しむ人には必要です。

 

 

依存症に限らず、引きこもりの方のグループなど、仲間に支えられる環境を提供できるか方法はないのかと、悶々と考えている日々です。